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グロースをデザインするひと

BABY-Q『[リゾーム的]なM』 他

久しぶりにダンス公演の感想。

BABY-Q『[リゾーム的]なM』 8/8 @吉祥寺シアター

私が日本で一番好きなダンスカンパニー「BABY-Q」の新作公演。
タイトルのMは「mother, monster, machine」を表しているとのことで、BABY-Q主催の東野祥子さんがこれまでずっとテーマにしてきた「女性、奇形、機械」をなぞった作品となっています(motherと女性の差分は今回の新しい要素ですが)。


しかししかしこの作品、これまでのBABY-Q作品と全く違った見え方で、それは何故かという答えは公演のリーフレットに書かれていました。

もう一度未来の舞台作品と向き合う為に不可欠だったのは、何らかの定位の変換、新しい手法でした。まず必要だったのは創造の主体としての「自己」を放棄すること。つまり「作品」とは、一つの動機と発想が主体を超えた次元で発展していく過程そのものの内にしかないという認識から歩み始めること。

この辺りのお話は公演後のアフタートークの中でもけっこうな時間をかけてされていました。


私は常々「芸術というものは自分の内面にあるものを表現することに他ならない」と思っていますが、その「自分の内面にあるもの」から「自分」をマイナスすることで自分が表現したい「意味」を純化する、ということを言っているのではと解釈しました。
確かに考えてみると、これまでの作品だと実際に舞台上に存在する東野祥子さん自体に大きく重みがあってそこから生々しい湿った表現内容が伝わってくるイメージでしたが、今回は東野祥子さんは本編には全く出演されず、その表現したい内容だけが(「乾いた」形で)強く伝わってくる感じがありました。
この考え方はこれから先、私がジャンル問わず「作品」について考えるときの一つの助けになると思います。


作品中、3人の「作られた女性性=女装した男性」が優雅に立ち振る舞う中で、複数の女性が徐々に壊れていく(溶けていく/潰れていく/死んでいく)というラストシーン、そこで表現されているものは女性にとって「希望」なのか「絶望」なのかが気になって、(アフタートークで東野さんに質問できず)公演後に出演者の一人にその話をしたところ、それは東野さん曰く「解放」だったと言われたことも非常に印象に残っています。
東野さんの作品は本当に本当に私の趣味ど真ん中なのでもしいつか一緒にお話する機会などあれば非常に嬉しいなぁ、と。


東野祥子『---MESs---メス---』 6/14 @リトルモア地下

こちらは東野祥子さんのソロ作品。
所感としては、メス(刃物)でメス(女)を切り開いたその切り口みたいな作品を想像していたら、メスでメスを細かく切り裂きまくって肉片をまき散らすごとく女性性の持つ意味をまき散らしたような作品でした、という感じ。


上記の作品と同じくこちらも今までの東野さん作品と同じテーマを扱いながらも表現の仕方は全く違って見えました。観た直後はその違いはよく分かっていなかったんですが、『[リゾーム的]なM』を観ることでようやくその違いは、表現内容から東野祥子さん自身が疎外されている、ことだったんだと気付きました。
本人の身体が中心となっている作品なのにその表現内容に自分自身が存在しない、ということを改めて思いなおすと『[リゾーム的]なM』以上に「創造の主体としての「自己」を放棄すること」がラディカルに実現されていたような気がします。まさに自分の身体を「意味の表現体」としてのみの存在にしようとしたのではないかと。


しかし、序盤のストロボフラッシュの嵐は肉体的に辛かった・・・


井田亜彩実『曇りのち晴ればれ』 7/5 @神楽坂セッションハウス

筑波大ダンス部卒のダンサーさんの初のソロ作品。実は『[リゾーム的]なM』にも出演。


彼女が踊っているところは彼女が大学一年生の頃から何度か観ているのですが、集団で踊っていてもデュオで踊っていても彼女だけ妙に目立っていて昔から「彼女のソロ作品を観たい!」と思っていたところにこの作品。
誰と踊っているところを観ても、作品を作る段階(表現内容を固める段階)にしろ作品を演じる段階(表現方法を実現する段階)にしろ他のメンバーがいることで何か制限を受けているように見えてしまって、何の縛りも受けずに作品を作ったらどうなるんだろうかと多いに期待していたら、期待通りに素晴らしい作品を作ってきてくれました。
動き自体も非常に目を引くし、作品の一部を切り取っても全体を観ても単純に観ていて気持ち良く、「ザ・井田亜彩実」をまず一つ見せてもらった感じです。これからの作品にも期待。
この作品は12/19にセッションハウスで再演するらしいので楽しみにしています。


東野祥子さんのもとでもっと経験を積むことになったら、表現内容ももっとオレ好みになるんじゃないかと独りで勝手にほくそ笑み中 笑