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グロースをデザインするひと

『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX SECTION-9』

book review

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX SECTION-9

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX SECTION-9

攻殻機動隊S.A.C、攻殻機動隊S.A.C 2nd GIG、攻殻機動隊S.A.C SSSの監督を担当した神山健治さんが書いた新作小説。
「個別の十一人事件(2nd)」と「傀儡廻事件(SSS)」の間を埋める短篇集。


「間を埋める」と言ってもそこで何か重要な事件があって点と点が結ばれるわけではなくむしろ6本の短編を通して全体で、公安9課の「ひとつの事件に10の力で当たる組織」から「3つの事件に8の力で対応できる組織」への変容を描いたような作品。
各話とも物語は荒巻課長・素子・バトー・トグサ・イシカワ・パズ・童貞といったオリジナルメンバーではなく9課の新人メンバーにフォーカスされていている。


以下、 それぞれのさわりとちょっとした感想。

殺しの館 KILLING HOUSE

SWAT上がりの新人隊員アマギを主人公として、バトーにしごかれる新人隊員たちを描いた作品。
「隊長職を後輩であるトグサに奪われ、教育係という閑職に追いやられているバトーが八つ当たりで自分らをいじめている」と感じてしまう新人隊員が妙にリアルで良い。
しかしまぁ結局のところ、9課メンバーのなかで誰よりも人情深いのがバトーさんなんですが。

感染 NUMBER OF THE BEAST

イシカワのもとで電脳戦を担当する新人技術者ソガと、そこで発生したトラブルを描く。
これまた、自分を差し置いてイシカワに評価されている同期の新人メンバーに嫉妬する姿が生々しい。
電脳空間の描写は活字でもテンション上がる。
ボーマも出てくるけどピザ買ってるくだけで終わる。相変わらず不遇w

地を這う者ども TRACER DOG

2ndやSSSでも出てきていた新人隊員のアズマが、パズと一緒にある事件を追う。
パズの女性に対する態度が相変わらず酷い、というのは置いておいて、アズマが意外と良いキャラしてた。攻殻3rdがあるならアズマ主人公の話が一個あっても良いくらい。

戦場のThink UCHIKOMA

2nd後、AIを抜かれた状態のタチコマとは別に配備された思考戦車ウチコマと、その実験の演習要因に選ばれたマキの話。タチコマに比べて極端に感情を持たないウチコマと、しかしそこに感情移入してしまう人間の葛藤を描いた作品。

日報 I'VE LOST SIGHT OF ME.

2ndでも出てきていたバイオロイドのプロトくん主人公の話。ある極秘任務を受けての葛藤を描く。
人間でもアンドロイドでもなく、普通の人間と同じように普通に生活し、普通に仕事し、普通に悩む。そんなプロトが社会に溶け込む際に発生する問題はプロト側の問題だけではないよね、というお話。

地獄 B4

アフリカに行っているサイトー不在の中、大阪難民街で任務につくスナイパーのハタのお話。
ただ単に自分がスナイパー物が大好きだってのもあるけど、今回の6作品の中ではこれが一番好き。2ndのサイトー回と同じく戦場におけるスナイパーの描写が熱い。映像で観てみたいね。



全体的に、オリジナルメンバーが活躍しない分だけテンションはやや落ちるけど、逆に超人的なオリジナルメンバーではなかなか描きにくい、人間が普通に持つ「葛藤」が生々しくて良かったな、と。
ただ欲を言えば「未来への警鐘としてのSF」という役割を充分以上に果たしていたこれまでのSAC各作品と比べてしまうと、その要素がほとんど無く「考えさせられる」というよりただ単に「面白い」で終わってしまっている感じだったのはけっこう残念。


まぁそれでも久しぶりに攻殻の世界観を堪能できたし、攻殻好きにはぜひ読んでもらいたい一冊です。




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